2022/01/31
馬毛島は、鹿児島県西之表市に所在し、種子島の西沖合約12kmに位置する、面積約8.2平方kmの日本で二番目に大きな無人島です。
マゲシカ、ウミガメ、サンゴなどが生息する、自然豊かな環境です。
戦後、数百人が暮らしたり、漁期に泊まり込んだりしていましたが、1970年頃から、開発会社(現在のタストン・エアポート株式会社)が買収により99%の土地を所有することになりました。同社は、2000年頃から違法な採石や伐採など乱開発を繰り返しました。
2019年12月、日本政府が、かねて米国から求められていた米軍に共用する陸上空母着陸訓練(FCLP)基地建設のため、同社が所有する島の土地を試算評価額約40億円の約4倍にあたる約160億円で購入しました。その後、地元合意を得ないまま、ボーリング調査や環境アセスを始め、大型護衛艦も入港する巨大基地建設を進めています。
2021年1月末の市長選では反対派の市長が再選を果たしています。
当事務所の弁護士は、JELF会員である菅野庄一弁護士(東京)、西谷祐亮弁護士(鹿児島)らとともに、タストン社の乱開発に対する損害賠償請求等の代理人を務めてきました。
さらに、2020年12月からの第1期調査に続き、2021年8月から、防衛省による馬毛島周辺における海上ボーリング調査について、地元漁師の方々から委任を受け、漁を営む権利に基づき、
①鹿児島県に対し、許可の取消・執行停止(行政事件、鹿児島地裁)
②国に対し、工事の差し止め仮処分(民事事件、東京地裁)
を行っています。
今回の裁判を通じて、以下のとおり様々な問題が明らかになっています。
①よう船契約による漁協買収疑惑
②警戒船・巡視船・ブイによる漁業妨害
③海底の漁場破壊及び海中の濁りについての確認の不十分
④調査期間のごまかし・長期化のおそれ
⑤補償がない
これらについて調査するため、JELFの拡大理事会に合わせ、2021年11月21日、現地に行ってきました。
国はボーリング調査の台船の面積のみが漁業制限範囲であり、ごくわずかだと主張していますが、私たちが主張してきたとおり、その周囲に配置された多数の警戒船によって広範囲が制限されていることがよくわかりました。
国は警戒船について、安全のため注意喚起を行う役割があると説明していますが、私たちに注意喚起は全く行われませんでした。
一方、漁師の方が漁をしようとするときには、注意喚起を超えて、台船だけでなく馬毛島にも近づかないよう追いかけてくるそうです。実際、配置場所は種子島側ばかりで、馬毛島側を漁船が航行することは想定されていないようでした。
ボーリング調査の台船は漁船よりも大きく、遠くから確認できるので、警戒船を9隻も配置する必要性は全くないと感じました。この警戒船を担っているのは、漁協の理事を含めた組合員です。よう船料によって、組合員同士の分断をもたらしているといえます。
国は私たちの主張に対応するためか、2021年秋から使用する台船を変更し、工事を今までにない速さで進め、2022年1月31日に全箇所完了したため、裁判所の判断が出されることはなくなりました。
結果としていったん漁業妨害が解消されたことはよかったといえますが、国はアセス中にもかかわらず基地建設費を予算案に計上し、本体工事の発注も始めました。
馬毛島周辺の動植物や漁業、そして住民の暮らしを守るため、今後も問題点を指摘し、馬毛島基地の本体工事に反対してまいります。
(弁護士 塚本 和也)