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レポート 弁護士 寺田伸子

サロン・ハウリンも早くも第5回。ゲストは、今年の3月まで某市で児童相談所(以下、「児相」と呼びます。)の職員をされていた鈴木拓哉さんです。
鈴木さんは、メーカーに勤めるサラリーマンから公務員に転身し、地方自治体に「福祉職」で就職。社会福祉士の資格をお持ちで、5年間、児相でケースワーカーを務めました(今年の4月からは生活保護関係の部署に異動されています)。
いやあ、今回はなにしろ、鈴木さんと島弁護士との議論がやたらと白熱しまして。いえ、対立というわけではなく、異なる視点からの発言が活発に応酬された、ということです。児童虐待をめぐる問題については、誰もが熱くならずにはいられない…。

第1部、まずは鈴木さんに児相の活動の流れをお話しいただきました。学校や近隣住民、警察などから通報があると、児相は48時間以内に現場に状況を確認に行きます。場合によっては、児童を児相に連れてきて聴き取りをし、必要があれば「一時保護」がなされます。一時保護の上限は2か月間で、終了後、児童を家に帰してよいか、帰す場合はどのような対策を続けるか、といった判断は、弁護士も含まれるチームで議論して決定されます。
 島弁護士からは「息もたえだえになっている子どもがいると考えられれば、ドアを蹴破ってでも踏み込むべきときがあるのでは」「子どもは親の所有物ではなくて、社会全体で守るべき存在であると、認識を切り替えるべき」といった意見があり、私もうんうんとうなずいていました。そんな、やや前のめりな私たちに、鈴木さんが「緊急事態に対応すべきは当然ではあるが」と前置きした上で、粘り強く説明してくれたのは、たとえば凄惨な事件を後から振り返れば、「なぜドアを蹴破らなかったか」という発想になりがちだけれど、対処の真っ最中にいるケースワーカーには、ドアの内側が本当にわからない。また、一時保護は重大な行政処分であること、子どもを親から切り離すと子ども自身が傷つき、解決策にならない場合も多いこと。そして、児相が理念として目指すのは、「家族の再統合」ということ。と、これについては第2部でもっと突っ込んだ話を伺っています。
 鈴木さんの、「誰でも、虐待する可能性がある」「親は子どもの『身体の一部』と思うときがある」といった言葉には、見ている世界の広さや密度が違うのだな、とハッとさせられました。一時保護解除後は、親に定期的に来所してもらったり、学校と情報を共有したりといった措置が長期間続きます。鈴木さんは、「ここで親との間に『ラポール(信頼関係)』をいかに築くかが、ケースワーカーの腕の見せどころ」ときっぱり。それが、子どもを守るための、ひとつの有効な手立てであるということですね。

 さて、第2部に入り、さっそく私は、「家族の再統合」について、詳しい説明をお願いしました。児童虐待は離婚やDVなどといった大人の事情とからむ場合があり、そのような状況と、児相の再統合の理念との関係はどうなのだろうと思ったからです。鈴木さんは、「確かに、『家族の再統合』という言葉だけでは、実際にどこを目指しているのか、わかりにくいかもしれませんね。子どもの思いは複雑で、『私は助けられたいが家庭を壊されたくない』と考えていることもある。子どもが帰りたがっていて、親がきちんと子どもを受け入れて、安全性が確保できるという条件が揃った場合は、一時保護は解除しますが、家族の再統合は、その後のとても長いプロセスなんです。ケースワーカーが親と何度も話し合い、子どもと親が面会交流する場合には、専門家がアセスメントをして子どもの状況を精査する。親が子どもに謝罪する場面もあります。ただし、児相は破綻した家庭を正常化することはできないので、破綻したものとして扱うことになります。」とのことでした。破綻した家庭として扱いつつ、家族の再統合を目指す…個別な事案によって具体的な対処はさまざまでしょうが、やはり大変な仕事です。
質疑応答では、児相の職員自身の心のケアにも話題が及びました。子どもに泣かれ、親に「地獄に落ちろ」などと暴言を投げつけられる日々。時に、職員が自分の子どもの頃を追体験して辛くなる、ということもあるそうです。鈴木さんは、スポーツジムに通ったり、瞑想をしたりと心を穏やかに保つ工夫していたそうですが、「仕事を続けるうち、親子が面会してわあわあ泣いていても、『本気かな?』などとドライに見るようになってしまった。ちょっとイカれているのかもしれません(笑)」とも笑っていました。親とのラポールを真摯に構築しながらも、事案には距離を置いて向き合う、それはまさにプロフェッショナル。

 島弁護士は「子どもを虐待する親なんて野獣だ!(いや野獣に悪いけど)」と叫んでいましたが、「その一点に集中するより、大多数の子どもを、ひとりでも多く救うためにどうするかを考え続けたい」と、すかさず静かに応える鈴木さん。万全の解決策などない児童虐待を、それでもゼロにするため、あらゆる連携をとりながら、進んでいきましょう。