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レポート 弁護士 吉田理人



サロンハウリン第14回のゲストは、社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事の坪井節子弁護士を招いて、お話をうかがいました。


坪井さんは、40年ほど前から弁護士として子どもの問題にかかわるようになり、2004年、子どものためのシェルターを運営するカリヨン子どもセンターを立ち上げます。
まずは、カリヨン子どもセンターの立ち上げに至る経緯を聞きました。
坪井さんは、東京弁護士会の子どもの人権相談センターで、相談員を担当。
90年代頃から、虐待の相談が増えるようになり、家に帰りたがらない子ども本人からの相談を受けるようになりました。相談を受けた弁護士は、児童相談所へ行くようにアドバイスをしますが、児童相談所の一時保護施設は定員オーバーの状態で、年齢の小さい子どもを優先的に受け入れているため、10代半ばから後半の子どもを預かる余裕はありませんでした。
弁護士が児童相談所を案内しても、児童相談所で受け入れてもらえない。弁護士が子どもを預かることも難しい。結局、子どもは虐待のある家庭へ帰るか、家の外で生活するしかありません。家を出れば、女の子は、売春をしたり、男の子は犯罪グループにかかわるようになったりする危険がある、それをわかっていながら、なにもできないという大きなジレンマの中で、安心して子どもたちを保護できるシェルターがほしいと考えるようになります。

子どものためのシェルターの必要性を切実に感じる中で、東京弁護士会が毎年開催している子どもの問題を描く「もがれた翼」という演劇公演で、坪井さんが脚本を担当し、子どもシェルターを舞台にした演劇を上演しました。劇の中で、架空の子どものためのシェルターを描く中で、大きな反響を受けたこともあり、自分たちで子どもシェルターを実現しようという思いが強くなり、演劇にかかわった弁護士を中心に実際に設立準備を始めることになります。そして、2004年6月、坪井さんが代表となりNPO法人カリヨン子どもセンターを設立して、子どもシェルター「カリヨン子どもの家」を開設しました。
はじめは定員4名で、男女兼用の施設として開設。専従職員を2人おき、シェルターでの生活面の支援を行い、子ども一人につき弁護士一人が担当につき、親との交渉など法的問題の解決にあたるという体制をつくります。
子どもシェルターの設立資金は、講演での寄付集めや企業への寄付の呼びかけをして行く中で、外資系企業の寄付が非常に大きく、シェルターの実現に大きく貢献してもらったとのことでした。

カリヨン子どもセンターは、現在、避難場所としての子どもシェルターを男子用と女子用の2か所設置運営、子どもの自立支援のための自立援助ホームも男子用、女子用の2か所を設置運営しています。子どもシェルターでは、他の保護施設での受け入れが難しい15歳以上の子どもを受け入れています。そのほかシェルターや自立援助ホームにいる子どもやOB・OGが大人と一緒に遊んだり学んだりする場を提供するデイケア事業も行っています。デイケア事業には、島弁護士もボランティアで参加し、子どもにギターやボクシングを教えたりしています。虐待されてきた子は、大人に褒められたり、大人と一緒に遊んだりした経験がない子が多いため、このような場を提供することが、生きていくことの価値を感じられる貴重な体験になるといいます。
東京でのカリヨン子どもセンターの活動が広く認知されるようになったことで、全国各地で同様の施設が設置されるようになり、現在では全国19か所のシェルターが開設され、連携もしているとのことです。

カリヨン子どもセンターの設立経緯や活動内容の詳しい説明を聞いた後、虐待の問題に話が進みます。
坪井さん曰く、20年前には、身体的虐待など、典型的虐待の事例が多く、シェルターに来る子も、家の中をボロボロに破壊するなどエネルギーのある子どもが多かったが、最近は傾向に変化が見られ、優等生だった子が、うつや解離の疾患や、自傷行為に及ぶなどの症状からシェルターに来ることが増えているとのことでした。学校では優等生だったが、一度も親から褒められたことがなかったり、兄弟と比べられたり、親から出て行けと言われるなど、精神的に傷つけられてきた子が多いとのこと。

児童相談所の問題点については、大変さはよくわかっているといっていました。ただ、経験豊富な団塊の世代の児童福祉士が大量に退職し、経験のない若手が増えている状況で、虐待の件数も増えてきており、児童相談所が十分に機能しないという問題があると感じているとのこと。それでも、児童相談所は、一時保護措置の決定など、児童相談所しかできない役割があるので、子どものために、協力し合いながら、それぞれのできることを進めているとのことでした。
島弁護士から、児童相談所が関わっていながら、子どもが虐待死に至る事件が度々報道される中で、児童相談所の家族再統合(子どもを家族のもとに返す)という理念が事件を招いているのではないかと質問を投げかけます。
坪井さんは、カリヨンでは無理に家族再統合をしようとはしないとおっしゃっており、子どもの意思を尊重するために、児童福祉士や関係者との面談には、子ども本人も同席させているとのことでした。
第1部の最後には、今後の課題として、シェルターから出たあと、親を頼ることのできない若者が社会の中で孤立してしまうという問題が残っていると話していました。社会に出た後、実家のない若者がDVや出産、事件、事故など多くの問題に直面した時に、頼る場所がなく孤立しがちである。孤立した若者は、薬物などに手を出し死んでしまう事案もあることから、社会に出た後の若者を支援できる場所を作りたいとさらなる目標も掲げていました。

第2部では、弁護士介入の現場や、保護施設での虐待事例、里親の問題など、さらに深く具体的な内容に話が及びます。
その中で、子どもの人権保障のために大切な3本の柱の話が聞けました。
1 生まれてきてよかったと思えること
2 独りぼっちじゃないと思えること
3 あなたの人生は、あなたにしか選べないということを保障すること
この3つの柱を実現することを目標にカリヨンの運営をしているとのこと。
坪井さんは、弁護士として、子どもの問題にかかわっていく中で、何もできないというもどかしさを常に抱えてきたといいます。ただ、子どもに対して、何かをしてあげようという気持ちで接しても、子どもからはねつけられる。子どもから罵倒されたり、リストカットを目の前でされたり、ということも起きる。自分が何かをしてあげられるというのは思い上がりで、自分がしてあげられることはなにもないというところから始まり、何もしてあげられないけど、それでも子どもを独りぼっちにはさせないということを大切にしているとのことでした。

あくまで子ども本人が主体となり、自信をもって生きていけるよう、寄り添っていく。何かをしてあげたいと思うことがおごりなのだということを自覚し、子どもと謙虚にかかわっていくという姿勢は、坪井さんがこれまで多くの被虐待児と直接かかわり、衝突し葛藤してきたからこそ得られた姿勢なのだと思いました。虐待された子どもは、大人を振り回すという実体験に基づくエピソードも語ってもらえました。
少年犯罪の減少や、虐待の認知件数の増加、被虐待児の傾向の変化など、子どもを取り巻く問題も時代とともに変化しています。その中で、少しでも虐待を減らせるよう、また、被虐待児を救えるよう、これからも考え続け、民間と行政それぞれが足りない部分を補い合いながら問題解決のための取り組みを続けていかなければならないのだと感じました。
行政がやることには限界があるから、すべて行政に頼るのではなく、まずは民間が身軽にできることを実行し、その上で、民間ではできないが必要な対応を行政に具体的に求めていくのがいいのではないか。我々と行政とはあくまでも対等なパートナーだと考えているとの話が、民間と行政の関係を考える上で、非常に示唆に富むものでした。