2022/10/28
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https://www.youtube.com/watch?v=zfdwIpTNePU
弁護士 寺田伸子
サロン・ハウリン第8回は型破り! ゲストの吉岡忍さんのお話が、おもしろくってディテール満載、島弁護士が口をはさむ暇はほぼなし。時間は延びる、ギターも登場します。
吉岡忍さん、ノンフィクション作家、74歳。代表作に1985年の日航機墜落事故に関する『墜落の夏-日航123便事故全記録』などがあり、日本ペンクラブの会長やBPO放送倫理・番組向上機構委員会委員なども務められました。
が、まずは何と言っても、ベ平連。皆さん、ベ平連をご存知でしょうか? 島弁護士や私の世代は子どもの頃に見聞きしていたベトナム反戦運動。どういう運動であったかについては、吉岡さんが冒頭でお話しくださっていますので、ぜひアーカイブをご覧ください(以下、「ご覧ア」といいます)。吉岡さんは、脱走する米兵をかくまってスウェーデンに逃がす活動を実際に担い、密かに日本中を旅しました。大冒険ではありますが、「退屈なんだよ、見ず知らずのアメリカ人と二人っきりで1か月も過ごすのは。ビートルズも聴き飽きて、ローリングストーンズ、あとアメリカの兵隊で一番人気あったのはドアーズね。それから●●●。」はい、ここは書きにくいので、ご覧ア。無口な米兵がキング牧師暗殺のニュースをテレビでじっと見て「俺の敵はベトナムじゃない、アメリカだ」とつぶやく、そして…。今夜のハウリンは退屈どころではありません。
60年代~70年代の話題が続きます。吉岡さんが企画に関わった新宿西口フォークゲリラ。詳細はご覧アですが、「フォークやロックだけでなく、ゴダール、トリュフォー、テント劇場、今村昌平、ファッションも文学も新しくなっていった。戦争反対は政治運動だけど文化運動でもある。文化表現を多様化することが大事なんだ」と始まった活動のひとつです。「政治に反応して新しいものがうずまいていた、何かが大きく変わる希望をもっていたとうことですね」(島)。「自分はこういう表現者になりたい、違う表現のスタイルをやりたいとみんな思っていた。僕もそう。フォークゲリラやっていると、いろんなやつが来る。過激派も、セクトも、マルクス主義もやって来て、新宿西口地下がバザールみたいだった」(吉岡)。スマホの写真やSNSもなく、ナマの記録は少ない時代。もっとお話を聴きたい…ところへ、
「でさ、こないだ国葬があったじゃない」と話題は急転。
安倍元首相の国葬の日、吉岡さんは、新聞向けのルポ取材のため、朝から現地へ。反対派と献花の人と双方の行列で話を聴き、スマホでテレビ中継を見ているうち、菅氏の弔辞で山縣有朋が引用され「あ、原稿できた」と思ったそうです。民意が大キライだった山縣。これを弔辞で読む、拍手が起こる、翌日の朝刊では政治部記者でさえ、山縣がどんな政治家だったかを語らない。いったいどういうことなのか、ご覧アですよ。
さらに、ウクライナへの言及を発端に、吉岡さんは「国と国との戦争には嘘がある。大義として語られることにはひとつも真っ当なことがない。攻められる側さえも」と、強く言います。だから、「国家から逃げ出すことがもつ意味を僕は考える」と。ここで、島弁護士のユニットKick & Crossのギタリスト、クロスさんが登場。吉岡さんはボリス・ヴィアンの『脱走兵』を朗読してくれました。なんたってもう、必見、ご覧ア! 吉岡さんが勧める「物を考えるツールとして国や権力がない世界を想定してみる」という思想の実験についても、ご覧ア。
ずいぶん時間を延長した第1部でしたが、第2部も同じ熱量、同じ充実ぶりで続きました。国葬に関する日本ペンクラブの声明についての議論、従軍慰安婦問題を扱ったNHKの番組に安倍元首相が介入した生々しい経緯、そして『脱走兵』に関連して、18世紀からのアナーキズムの思想の歴史とFREEDOM、DEMOCRACYがスローガンとして使われるときの怪しさ。最後に吉岡さんは「今はいいチャンス。近代以降、私とは何者かとみな問うていたのが、コロナがあって自分がこんなにも他者と関わっていることがわかった。今日明日をどうやって生きるかというときに、国ではなくて社会が大事」とおっしゃって、お開きとなりました。
このレポートのために、私もご覧アしましたが、吉岡さんの一人称は「僕」、爽やかに、朗らかに語る声が胸に残るのです。