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原発メーカー訴訟・控訴審に向けて
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北海道新聞 2017年3月5日
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原発メーカー訴訟
サロン・ハウリン第3回レポート

2022/05/20

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レポート 弁護士 菅野典浩


サロン・ハウリン第3回のゲストは、前パタゴニア日本支社長の辻井隆行さんです。
パタゴニアは、1973年、イヴォン・シュイナード氏がカリフォルニアに創業したアウトドアのウェアや用品を扱うブランドで、環境保全という明確な企業理念をもつ会社です。
良質な商品を扱うが故にやや高価ながらも、世界中のアウトドアファンだけではなく、企業理念や活動に共感した人たちからも人気を得ています。
辻井さんは1968年東京生まれ、早稲田大学卒業後、大手自動車関連会社に勤務して社会人サッカーに挑戦されました。

引退・退職後に早稲田大学大学院に進学して地球社会論を専攻、大学院修了後はシーカヤックガイドやスキーパトロールなどをした後、1999年にパタゴニアにパートタイムスタッフとして入社。2009年から10年間に渡って日本支社長を務めるというユニークな経歴の持ち主です。
現在は、企業のビジョンや戦略立案に携わるソーシャルビジネスコンサルタントのほかに、ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)の事務方としてファッション産業が抱える問題解決に取り組むとともに、今年からJリーグの社外取締役に就任し、Jリーグと地域の社会連携などにもかかわるなど、多方面で活躍されています。

第1部の島弁護士とのトークセッションでは、パタゴニア時代の経験も踏まえ、「新しい時代への企業の役割」についてお話しいただきました。

まずは、パタゴニアの「ビジネスを使って環境問題を解決する」というミッション(現在のパタゴニアのミッションステートメントは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。)について、これまでの資本主義は企業の負担すべきコストを社会や途上国等に転嫁し負担させる「コストの外部化」によって企業の利益を増大化させてきたという問題意識から、パタゴニアでは不必要な環境負荷を減らしながらサプライチェーンの人権問題や労働環境に配慮するという方法を通じてビジネスを行い、ビジネスを手段として環境問題を解決することに貢献してきたとのことでした。

辻井さんは、Tシャツの製造・販売の過程を例にして、実際に綿花畑を訪れて大量の農薬が使われていることを目の当たりにしたことや、一日数セントで働かされる海外工場の労働者といったエピソードから、オーガニックやフェアートレードの素材を使う等、「環境負荷の低い素材」への転換や、工場労働者に賃金を直接支払う仕組みを作って生活を確保するようにした「労働環境の改善」といった経営者時代の経験を非常に分かりやすく説明いただきました。

また、パタゴニア時代は、社内で共有している5つのコア(柱)として、①事業利益、②従業員、③顧客、④地域、⑤自然環境があり、これらのバランスを考えて経営しており、パタゴニアが消費者に支持される一番の理由は「真剣な製品づくり」への共感にあり、また社員が理念を理解し、共有して行動していることを挙げられていました。
他方、現代社会が抱える問題点として、辻井さんは、現代のサプライチェーンが複雑化された結果、作り手と使い手の距離が遠くなり見えなくなったことを挙げて、「顔の見える消費」がパラダイムシフトを生む可能性があると指摘されていました。そして、ちゃんとやっている企業が得する仕組みを作ることが必要で、経済活動が人を豊かにするのかを考えたほうが良い時代にあるとして、これからの時代にあるべき企業の役割だけでなく、消費者側の意識の変化や社会の仕組みづくりの重要性を示唆されました。

配信終了後の第2部では、辻井さんの問題意識や考えなどについて、さらに詳しいお話を伺いました。
まずは、パタゴニア時代から取り組んでいる石木ダムの取り組みについて伺いました。
8年に渡って関わっている石木ダムの反対活動をしている住民との交流や長崎県をはじめとする行政の問題点について熱く語られ、島弁護士も八ッ場ダム訴訟の経験に基づいて環境訴訟の難しさについて、話はアメリカと日本の行政訴訟の違いから日本の民主主義の在り方やメディアの役割などまでに及びました。

また、1年間に生産される洋服の8割は廃棄されているというファッション産業が抱える供給過剰と廃棄問題を例に、環境への負荷を当然の前提として構築された経済活動の限界やカーボンニュートラルをはじめとする環境負荷低減に向けて動き出している世界と遅れている日本への危機感や在り方など率直に語られました。
その中で、辻井さんは、これまでの環境保護活動の問題点などにも触れられ、社会をよくするため、問題解決に向けて情報開示の重要性と公開できちんと議論することの大切さを指摘されていました。

最後に、ハーバード大学のロバート・ウォールディンガー教授による「幸せ」の研究に触れられ、「私達を健康に幸福にするのは、良い人間関係に尽きる」という研究結果を紹介し、幸せになるため物質的な豊かさを目指してきたこれまでの資本主義的な活動の負の遺産に直面している現代へのアンチテーゼであるとして締められました。

辻井さんは、「今でもイヴォンに監視されている。」と笑って仰っていたように、イヴォン氏の考え方を踏まえた自分の中の行動基準にブレがなく、スポーツマンらしい爽やかさと内に秘めた熱い思いを持つ一方、経営者としての冷静な現状分析と理路整然とした話し方が非常に印象的でした。
パタゴニア時代を含む様々なエピソードは、例えば、聞き手である日本にいる私たちの経済活動が世界のどこかにいる人の生活につながっているという事実を改めて実感させるもので、現代社会の問題がビジネスのあり方や我々の生活に基づいた問題であることを深く考えさせられました。
社会問題を解決する難しさ、思うように進まない現実などプレッシャーに直面されている毎日を過ごされている辻井さんは、スキーやサーフィンでストレスを発散しているとのことで、英気を養うため、サロン・アーライツが終わってから夜行バスで秋田にスキーに行かれました。